工場の床は、ただ従業員が歩くだけの場所ではありません。毎日、重い機械や製品が置かれ、フォークリフトが行き交い、時には油や薬品がこぼれることもあります。それは、日々の安全な作業と生産活動を静かに支える、とても重要な土台です。
しかし、その床の塗装が剥がれてきたり、コンクリートにひびが入ったりしているのを見て、「そろそろ塗り直さなければ」と感じながらも、日々の忙しさから後回しにしてしまうこともあるかもしれません。あるいは、費用を抑えるために、とりあえず自分たちで塗ってみようかと考えることもあるでしょう。
ただ、工場の床塗装は、見た目をきれいにするためだけに行うものではありません。床のささくれや凹凸は、従業員のつまずきや転倒の原因になりかねませんし、清掃がしにくくなることで衛生的な環境を保つのが難しくなることもあります。安易な方法で塗装をしてしまうと、すぐにまた剥がれてしまい、結果的にもう一度やり直すための時間と費用がかかってしまう、という話も少なくありません。
大切なのは、なぜその作業が必要なのか、どうすれば床の性能を長持ちさせられるのかという「正しいやり方」の根拠を理解することです。この知識があれば、無駄なコストをかけずに、自社の工場にとって本当に価値のある床塗装とは何かを判断できるようになるはずです。
準備が9割。床塗装の品質を決める「塗装前」の3つの確認事項
本格的な塗装作業に入る前に、少しだけ立ち止まって、自分たちの工場の床について知る時間を持つことが、成功への一番の近道です。ここでどれだけ丁寧に現状を把握できるかが、塗装の仕上がりと耐久性を大きく左右します。焦らずに、以下の3つの点を確認することから始めましょう。
床の材質と今の状態を知る
まずは、今の床がどのような材料でできているかを確認します。多くの工場ではコンクリートが使われていますが、その状態は様々です。表面をよく観察してみてください。細かなひび割れはありませんか。フォークリフトの通路など、特に負担のかかる場所が削れていたり、凹んでいたりしませんか。長年使ってきた機械の周りには、油が深く染み込んでいるかもしれません。こうした床が発している小さなサインを見つけることが、適切な対処法を選ぶための第一歩になります。古い塗装が残っている場合は、どこが、どの程度剥がれかけているのかも見ておきましょう。
工場の使い方と床に求める役割
次に、その床が工場内でどのような役割を担っているかを考えます。例えば、食品を扱う工場であれば、何よりも衛生面が重要になります。掃除がしやすく、菌が繁殖しにくい床であることが求められるでしょう。重い機械や製品が行き来する場所なら、その重さに長期間耐えられる頑丈さが必要です。薬品を扱うエリアであれば、こぼれても床が傷まないような耐薬品性が欠かせません。このように、工場の使い方によって床に求める機能は全く異なります。「自分たちの工場には、どんな性能が必要なのか」を整理しておくことで、数ある塗料の中から最適なものを選ぶ基準が明確になります。
塗料の主な種類とそれぞれの得意なこと
床に求めたい役割がはっきりしたら、次は塗料について見ていきましょう。工場の床塗装でよく使われるものには、主に「エポキシ樹脂」と「ウレタン樹脂」があります。専門的な名前で難しく感じるかもしれませんが、それぞれの得意なことを知っておくと選びやすくなります。エポキシ樹脂は、非常に硬く仕上がり、重さや摩擦に強いのが特徴です。薬品に強いタイプも多くあります。一方、ウレタン樹脂は、エポキシ樹脂に比べると少し弾力性があり、コンクリートの細かな動きにもついていきやすいため、ひび割れが起きにくいという長所があります。どちらが良いというわけではなく、工場の状況と使い方に合わせて選ぶことが大切です。
プロが実践する工場床塗装の5ステップ|各工程の目的と作業内容
床の状態を確認し、塗料の候補が決まったら、いよいよ具体的な作業工程に入ります。プロが行う床塗装は、ただ塗料を塗るだけではありません。一つひとつの工程に大切な意味があり、それらを丁寧に行うことで、初めて長持ちする強い床が生まれます。ここでは、その基本的な5つのステップをご紹介します。
ステップ1:下地処理(ケレン・高圧洗浄)
塗装において最も重要と言っても過言ではないのが、この下地処理です。どんなに高価で優れた塗料を使っても、塗る相手の床が汚れていたり、古い塗装が浮いていたりすると、塗料はうまく密着せずに、すぐに剥がれてしまいます。そうならないために、専用の機械や道具を使って古い塗膜や汚れ、油分を徹底的に取り除きます。この工程をどれだけ丁寧に行うかが、塗装全体の寿命を決めると言ってもいいでしょう。
ステップ2:下地補修(ひび割れ・凹凸処理)
床をきれいにしたら、次は傷んだ部分の補修です。ひび割れや欠けている部分、凹凸などを専用の材料で埋めて、床全体を平らで滑らかな状態に整えていきます。小さなひび割れだからと放置してしまうと、そこから水や油が浸透し、さらに劣化が進んでしまう原因になります。このひと手間が、塗装後の美しい仕上がりと、床そのものの保護に繋がります。
ステップ3:下塗り(プライマー塗布)
下地が整ったら、次に「プライマー」と呼ばれる下塗り用の塗料を塗ります。これは、床(下地)と、この後に塗る塗料(上塗り)とを強力に接着させる、いわば「両面テープ」のような役割を果たします。この下塗りを行うことで、上塗り塗料が剥がれにくくなるだけでなく、下地が塗料を吸い込みすぎて色ムラが起きるのを防ぐ効果もあります。
ステップ4:中塗り・上塗り
いよいよ、選んだ塗料を塗っていく工程です。多くの場合、十分な厚みを確保し、床に必要な強度や機能性を持たせるために、2回以上に分けて塗り重ねます。これが「中塗り」と「上塗り」です。ここで焦って一度に厚く塗ろうとすると、乾燥不良や仕上がりの悪さに繋がります。決められた時間を守りながら、丁寧に塗り重ねていくことで、丈夫で美しい塗膜が完成します。
ステップ5:乾燥・養生
塗装作業がすべて終わっても、すぐに床を使うことはできません。塗料が完全に硬化し、本来の性能を発揮するまでには、一定の時間が必要です。この時間を「乾燥・養生期間」と呼びます。塗料の種類や季節、温度によって必要な時間は異なりますが、この期間をしっかり確保することが非常に重要です。完全に硬化する前に人やフォークリフトが乗ってしまうと、傷や跡がついてしまい、せっかくの塗装が台無しになる可能性もあります。
【事例で学ぶ】食品工場と機械工場で「やり方」はこう変わる
これまで見てきた基本的なステップは、どのような工場でも共通する土台となります。しかし、ここからは一歩進んで、工場の種類によって「やり方」がどのように変わってくるのかを見ていきましょう。代表的な例として、求められる性能が大きく異なる「食品工場」と「機械工場」を取り上げます。
ケース1:衛生管理が最優先される食品工場
食品を扱う工場では、床に求められる最も重要な性能は「衛生管理のしやすさ」です。床にわずかな隙間やひび割れでもあると、そこに水や汚れが溜まり、細菌が繁殖する原因になりかねません。そのため、床材を選ぶ際には、抗菌性や防カビ性の高いものが選ばれることが多くあります。
また、施工方法も特殊な配慮が必要です。コンクリートの継ぎ目などをなくし、床全体を滑らかで一体的な状態にする「シームレス工法」がよく用いられます。さらに、床と壁の境目は汚れが溜まりやすい場所であるため、丸みを持たせて掃除がしやすくなるような工夫も施されます。毎日の洗浄作業で使われる水や熱、洗浄剤にも耐えられる塗料を選ぶことも、衛生的な環境を長く保つためには欠かせないポイントです。
ケース2:重さと油に耐える機械工場
一方、機械工場や部品工場では、床は常に過酷な環境にさらされています。数トンにもなるフォークリフトが走り回り、硬い部品や工具が床に落下することもあります。そのため、何よりも求められるのは衝撃に耐える「強さ」と「頑丈さ」です。
こうした工場では、一般的な塗装よりも塗膜を厚く仕上げる「厚膜(あつまく)仕上げ」が選ばれることが多く、これにより床の強度を格段に高めることができます。また、機械から漏れる油や薬品がコンクリートに染み込んでしまうと、床の劣化を早めるだけでなく、滑って転倒する危険も増します。そのため、油や薬品に強い「耐油性」や「耐薬品性」を持つ塗料を選ぶことが極めて重要になります。信頼できる専門業者の多くは、こうした工場の特性を深く理解し、その場所で起こりうる様々な状況を想定して、最適な施工方法を提案してくれます。
まとめ:最適な「やり方」の選択が工場の未来を左右する
これまで、工場の床塗装における正しいやり方について、準備から具体的な工程、そして工場ごとの応用例までを見てきました。情報が多く難しく感じられた部分もあったかもしれませんが、大切なポイントは非常にシンプルです。最後に、これだけは押さえておきたいという要点を振り返ってみましょう。
工場床塗装で押さえるべき重要ポイントの再確認
まず一つ目は、何よりも「下地処理」が重要であるということです。塗装の仕上がりと耐久性のほとんどは、この見えない部分の丁寧さで決まります。二つ目は、「自分たちの工場に合った機能を選ぶ」こと。見た目のきれいさだけでなく、その床で何が行われるのかを考え、必要な性能を持つ塗料を選ぶ視点が大切です。そして三つ目が、「正しい工程と乾燥時間を守る」こと。急がば回れの言葉通り、一つひとつのステップを丁寧に行うことが、結果的に長持ちする強い床に繋がります。
「初期費用」と「長持ち」のバランスを考える
床塗装を検討する際、どうしても最初の費用に目が行きがちです。しかし、本当に大切なのは、5年後、10年後まで見据えた長期的な視点です。たとえ初期費用が少し高くても、耐久性が高くメンテナンスの手間がかからない床を選べば、修繕を繰り返すよりも合計の出費を抑えられる場合があります。良い塗装は、工場の資産価値を守り、日々の維持管理にかかる時間や労力を減らしてくれる、未来への賢い投資と考えることができます。床塗装は、会社の未来を支える大切な仕事の一つなのです。
床づくりという仕事は、多くの工場の未来を支えるやりがいのある分野です。この分野でのキャリアに関心がある方は、こちらの情報もご覧ください。
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この記事を通して、工場床塗装の基本的な知識や流れはご理解いただけたかと思います。しかし、「理論は分かったけれど、いざ自分の工場の床を見てみると、どのくらい傷んでいるのか、どんな塗料が合うのか、判断が難しい」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。
床の劣化状態や材質、そして目には見えない湿気の状態など、正確な判断には専門的な知識と経験が必要です。専門家は、私たちが気づかないような細かな床のサインを読み取り、数ある選択肢の中からその工場にとって最も費用対効果の高い方法を提案してくれます。
多くの専門業者では、相談や現地での床の診断、そして見積もりの作成を無料で行っています。まずは専門家の客観的な意見を聞いてみることで、自分たちがやるべきことがより明確になるはずです。一つの会社の意見だけでなく、いくつかの会社から話を聞いて比較検討することも、納得のいく選択をするためには有効な手段です。自分たちだけで悩まず、まずは専門家の力を借りて、最適な一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
より具体的な相談や、専門家による床の診断を希望される場合は、こちらからお気軽にお声がけください。